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『82年生まれ、キム・ジヨン』感想、女に生まれた絶望感、一人の韓国人女性の姿を通して見えてくる憤り

2019年4月5日

82年生まれ、キム・ジヨン

韓国で100万部を売り上げ、社会的ブームを巻き起こした小説『82年生まれ、キム・ジヨン(82년생 김지영)』。

タイトルの通り、82年生まれの女性キム・ジヨンが男尊女卑が強く残る韓国社会で生きていく中、困難に遭遇する様子が小説形式で描かれています。

わたしがこの本を知ったのはこれまた韓国で一大ムーブメントを巻き起こした「Me too」運動に関連してでした。韓国の男性が糾弾されることになった「Me too」運動を背景に大ベストセラーとなった本書。

結果、韓国の男性が何やら『82年生まれ、キム・ジヨン』に怒りを発している、ときわめて曖昧な知識で認識し、『82年生まれ、キム・ジヨン』はいわゆるフェミニズム運動に連なる本なのだろう、と。

が、書店にて『82年生まれ、キム・ジヨン』を手にし、その考えを改め、好奇心にかられて購入。

確かに結果として『82年生まれ、キム・ジヨン』はフェミニズム運動に繋がるかもしれませんが、本書が描いているのはそれだけではありません。女性ならば誰もが理不尽に感じたことが綴られており、非常に共感しやすい内容でした。

※以下、ネタバレあります。

管理人
75年生まれのわたしと重なる部分もあれば、ずれを感じる部分も。思ったことは韓国は思っていた以上に男性優位の社会なのだ、ということ。

楽天市場82年生まれ、キム・ジヨン (単行本) [ チョ・ナムジュ ]

『82年生まれ、キム・ジヨン』あらすじ、韓国社会における男尊女卑をあぶりだす

冒頭の文章は読みづらいですし、唐突な印象。でも、そこからこれはどうなっていくのだろう?と引き込まれる。

82年生まれ、キム・ジヨン

キム・ジヨン氏、33歳。3年前に結婚し、昨年、女の子を出産した。3歳年上の夫チョン・デヒョン氏と娘のチョン・ジウォンちゃんとともに、ソウルのはずれにある大規模団地の24坪のマンションにチョンセで住んでいる。チョン・デヒョン氏はIT関係の中堅企業に勤めており、キム・ジヨン氏も小さいな広告代理店で働いていたが出産とともに退職した。デヒョン氏の帰宅時間は毎日夜の12時ごろで、週末も土日どちらかは出社する。夫の実家は釜山だし、ジヨン氏の両親も食堂を経営していて忙しいので、ジヨン氏は一人で子育てを担当している・・・

タイトルにもなっている「キム・ジヨン」という名は82年生まれの韓国人女性に一番多い名前だそう。

つまり普通の韓国人女性であるキム・ジヨンが韓国社会で女性として無意識のうちに感じる生きづらさを一人の精神科医が描いた世界です。

そう、82年生まれのキム・ジヨンの誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児を通してキム・ジヨンが感じた葛藤が・・・いえ、それだけではありません。

キム・ジヨンの母であるオ・ミスク、祖母であるコ・スンブン、姉であるキム・ウニョン、上司であるキム・ウンシル課長、友であるユン・ヘジン、大学の先輩、チャ・スンヨン・・・あらゆる世代の女性をとりあげ、韓国で女性として生きていくうえでの葛藤や困難、衝撃を淡々と描いています。

ざっくりと書きますと第2次世界大戦以降の韓国人女性のありようを描いた内容になります。

管理人
K-Popスターや韓流スターが『82年生まれ、キム・ジヨン』に言及し、一波乱もあったようで、韓国人アイドルファンの子たちを中心に日本でもベストセラーになっています。

作者は1978年生まれのチョ・ナムジュ

作者のチョ・ナムジュは1978年生まれ。

韓国の名門女子大、梨花女子大学を卒業、放送作家として社会派番組や時事・教養番組などを10年間担当した後、2011年に小説家としてデビュー。

来日されています。

『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだ感想 女として生きることの不条理さ

82年生まれ、キム・ジヨン

読み終えた感想は「救いがないな」ということでしょうか。

実をいうと、わたしは『82年生まれ、キム・ジヨン』を読むまで、自分が女であるが故に被った理不尽さをあまり強く認識していませんでした。

ただ「そういうものか」と受け止め、するーと生きてきたように思います。が、『82年生まれ、キム・ジヨン』を読み、わたしも女であるが故の理不尽さを被ったことがあると愕然と。

例え、理不尽なことを感じても、わたしもキム・ジヨンのように「周りがそうだから・・・」と押し殺して、押し殺して生きてきて、そして、今、存在しています。

一方、本書の主人公、キム・ジヨンはその理不尽さに耐えられず、自らの心を殺してしまったのだろう、と理解しました。

どうして、わたしはそれらを無視して生きてきたのだろう。気づかなかったのだろう。

韓国で普通に女性として生きることの不条理さを淡々とつづる

『82年生まれ、キム・ジヨン』では大きな事件は何一つ起こりません。

82年生まれのキム・ジヨンという普通の韓国人女性が生まれ、成長し、学校へ行き、就職し、恋愛をして結婚をし、子どもを産む過程を淡々と描いているだけです。

その中でキム・ジヨンが体感する不条理さを淡々とつづられています。

女の子の出産は縁起でもない悲しさ、家庭における食事の配膳の順序、学校内における出席番号の順序、性の対象として見られる怖さ、職場における男性との給料格差、男性以上に働かないと認められない理不尽さ、子どもを産むことへの圧力、妊娠して働き続ける辛さ、子どもを一人で育てていく孤独、仕事を見つける大変さ、そして、キム・ジヨンが己を手放すきっかけになった「ママ虫」という言葉。

一つ一つは些細なことかもしれませんが、畳みかけるように小説にて展開をされると、愕然とするものがありました。

性の対象として、モノのように見られる女性たち

印象に残ったのは韓国の女性は常に性の対象として見られている、ということ。

キム・ジヨンの容貌ははっきりとしませんが、普通の韓国人女性として考えても想像以上にキム・ジヨンやその他の韓国人女性は性の対象として辛い目にあっていることを実感しました。

最近の BIGBANG のセクハラや盗撮、暴力が絡む一連の事件やホテル内の大規模盗撮、動画の共有事件などをどこか対岸の火事のように眺めていましたが、今回、『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだことにより、リアルな恐怖として迫ってきました。

 韓国のKポップ界は、究極に清廉潔白なイメージでスターを売り出してきた。スターたちはその健康的なルックスで世界中にファンを増やしてきたが、このところセックススキャンダルが相次いでいる。活動家らは、これらのスキャンダルは、韓国社会にまん延する女性への差別と虐待を浮き彫りにしていると指摘する。

わずか2日のうちに、男性人気アイドルグループ「BIGBANG(ビッグバン)」のメンバーV.I(本名イ・スンヒョン、Lee Seung-hyun)さん(29)と、男性人気歌手チョン・ジュニョン(Jung Joon-young)さん(30)の2人が、相次いで芸能界からの引退を表明した。

V.Iさんは、投資家への性的サービスあっせん疑惑が浮上し、チョンさんは、女性との性行為を同意なく撮影した動画を共有した事実を認めた。

韓国の放送局SBSの報道によれば、チョンさんとV.Iさんは同じチャットグループのメンバーで、そこでは複数のメンバーが、少なくとも10人の女性との性行為を盗撮した動画を共有していた。

韓国では、男性が主に女性を隠し撮りする「モルカ」と呼ばれる「スパイカメラ(隠し撮り用小型カメラ)」による盗撮行為がはびこっており、取り締まりが行われてきた。

出典:https://www.afpbb.com/articles/-/3215718

わたしはこれらのニュースをどこか対岸の火事のように受け止めていました。

しかし、考えてみればわたしも10代の頃や20代の頃は電車内で痴漢にあったり、夜道に駅からつけてきた見知らぬ男に抱きしめられたことがありました(叫んだら男は逃げましたが・・・)。

『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んでその時に抱いた気持ちを思い出し、愕然としました。どうして忘れていたのだろう、と。

現在40代半ばになり、良かったことは、もうこの手の被害の心配をほとんどしなくていいことでしょうか。。。

管理人
現在は映像として残ること、そしてそれが一度拡散されると止める術がないことがより深い絶望感をもたらしているように感じます…酷い、悲しい、悔しい…

印象に残ったセリフ

『82年生まれ、キム・ジヨン』に登場した印象的なセリフをいくつか紹介します。

「あんた、いつも俺の前の席にいるじゃん。俺にプリント渡すときも、すっげえニコニコしてんじゃん。毎日毎日、どうぞーとかって愛想いいくせに、何で痴漢扱いするんだ」

P60より抜粋。予備校帰りに男の子に追いかけられたキム・ジヨンに対して。

「ふだんは最初の客に女は載せないんだけれどね。ぱっと見て面接だなと思ったから、乗せてやったんだよ」

P93より抜粋。面接に向かうキム・ジヨンを載せたタクシー運転手。

「そうじゃなくて、それはキム・ジヨンさんの仕事じゃないからよ。これは新人が入るたびに感じてきたことなんだけれど、今までもずっと、誰も頼んでいないのにいちばん年下の女性が細かい面倒な仕事は全部やってきたのよね、男性はやらないのに。いくら年下の新人社員でもやれといわれていない以上やらなくていいのよ。どうして女性社員が自分から進んでやるようになるのかなあ」

P105より抜粋。広告代理店の女性上司、キム・ウンシル課長。

「このお姑さんったらほんとに、気が利かないねえ、何してるの?子どもができる薬を用意してやりなさいよ。お嫁さんだって寂しいでしょうに」

P126より抜粋。キム・ジヨンの夫の伯母。

「私、実は精神科に通っているんだ。何ともないふりをしてわざと大声で笑ったりしてるけど、ほんとは気が狂いそうだよ。知らない人と目が合っても、あの人も私の写真を見たのかなって思うし、誰かが笑うと私をばかにして笑っているような気がするし、世の中の人が全員、私に気づいているみたいでね。女性社員のほとんどが薬を飲んだりカウンセリングを受けたりしてるのよ。ジョンウンは睡眠薬を飲んで救急搬送されたし、総務の二人と、チェ・ヘジさんとパク・ソニョンさんは辞めちゃったし」

P148より抜粋。キム・ジヨンの同僚、カン・ヘス。会社に盗撮カメラをしけかけられて。

最後はキム・ジヨンのセリフ。

「私の夫が稼いだお金で私が何を買おうと、そんなのうちの問題でしょ。私があなたのお金を盗んだわけでもないのに、死ぬほど痛い思いをして赤ちゃん産んで、私の生活も、仕事も、夢も捨てて、自分の人生や私自身のことはほったらかしにして子どもを育てているのに、虫だって。害虫なんだって。私、どうすればいい?」

P159より抜粋。尚、韓国にはママ虫というネットスラングがある。育児をろくにせず遊びまわる母親という意味。

75年生まれ、わたしの中にも存在しているキム・ジヨン

わたしの過去を振り返ってもキム・ジヨンが存在していました。

その時は「納得できないよね」「なんで、わたしだけ」「どうしてわたしがこんな目に」「許せない」「どうしてあの子は許されているの」と思いながらも、それらの理不尽なことをさらりと受け流すのが大人の女性である、と思っていました。

それが正しいことだと思っていました。事を荒立たせることをみっともない、と思っている部分がありました。そうやって自分に納得をさせてきました。

それだけにキム・ジヨンの痛みには共感できました。

でも、その先、わたしはどうするのか・・・それはまだ分からないです。

理不尽は理不尽であると突き付けられたわたしは葛藤をこのまま抱えていくのか。それともノーと突き付けるのか。

今は、「気づかない方が良かった幸せがあったのかもしれない」と思っているわたしもいます。

管理人
キム・ジヨンの葛藤はわたしより少し上の世代の方がより実感を伴って共感できるかもしれません・・・

理解しているつもりの男性に対する絶望感漂う結末

82年生まれ、キム・ジヨン

『82年生まれ、キム・ジヨン』は徹底して女性視点で綴られた小説です。

男性には名前すら与えられません。キム・ジヨンの夫以外はすべて属性で登場するだけです。父、弟、先輩、舅などで登場するだけです。そして、キム・ジヨンや多くの韓国人女性の前に無意識に優位に立って出てくるだけ。一方、女性は事細かく名前を与えられて、自らが被った理不尽なことを赤裸々に語ります。

だからこそ、『82年生まれ、キム・ジヨン』は女性が共感する小説になる一方で男性(特に韓国人男性)は反発を示す小説になったのだろう、と容易く想像できます。

もちろん、男性にも男性なりの言い分はあるでしょう。

女性が女性として生きていく上での生きづらさと男性が男性として生きていく上での生きづらさ。

どちらの生きづらさがより大変だ、より辛いんだ、よりしんどいんだ、ということではなく、性差による生きづらさは理解はしても、永遠に分かり合えないものなんだろう、と。

その結果がキム・ジヨンの夫、チョン・デヒョンであり、精神科医であるのだろう、と。

キム・ジヨンの絶望を理解しているつもりで理解していない彼らの言い分があるのでしょう。

「でもね、世の中にはいい男の人の方が多いのよ」

とは、予備校の男の子に怖い目にあわされたキム・ジヨンを助けた女性のセリフ。

それはそうだろうと思います。

実際にキム・ジヨンの夫、チョン・デヒョンはとても理解のある、いい夫だと思いました。理想的です。キム・ジヨンの彼氏もステキな人でした。

でも、彼らは男であり、それがゆえにキム・ジヨンの絶望感を理解するフリはできても(男の傲慢さ・・・!)、それ以上は何もできないでしょう。

その救いがたい結末に愕然とするのはわたしの中に甘い期待があるからでしょうか。

83年生まれのチョン・ユミとコン・ユ出演で映画化 → 見ました

『82年生まれ、キム・ジヨン』は韓国で映画化されます。

「82年生まれのキム・ジヨン」映画化に国民請願まで登場…「男女平等に反する」

チョ・ナムジュ作家の長編小説『82年生まれのキム・ジヨン』が映画化されるというニュースが報道されると、これに反対する国民請願まで登場した。

去る12日、大統領府の国民請願ホームページには「小説『82年生まれのキム・ジヨン』の映画化を防いでください」、「チョン・ユミの映画『82年生まれのキム・ジヨン』出演を反対します」という請願が登録された。

高校3年生だというある男子学生は「請願が実現されるのが難しいのは知っているが、この請願が賛同をたくさん得て、メッセージとなれば」と請願を提案した理由を明らかにした後、「『82年生まれキム・ジヨン』が持っている、特定の性別や社会的位置から眺める歪曲された社会に対する価値観が普遍化されることは防ぐべきだ」と主張した。

続いて男子学生は「ところで、これをスクリーンで上映することは男女の平等に反するだけでではなく、『性の葛藤』を助長するだけ」とし「『82年生まれのキム・ジヨン』という小説の映画化は、もう一度考えるべき問題だと思う」と再び映画化反対を主張した。

別の男性は『82年生まれのキム・ジヨン』の主演に抜擢された俳優チョン・ユミの出演自体に反対するとして、「賛否のある小説に出演することに反対する。男性ファンをすべてアンチファンにするつもりなのか。出演はなかったことにしてほしい」と主張した。

出典:http://mottokorea.com/mottoKoreaW/FunJoy_list.do?bbsBasketType=R&seq=76929

韓国の男性諸氏が『82年生まれ、キム・ジヨン』を毛嫌いしている様子がうかがえますね・・・!

わたしは映画化されたら何らかの形で見ると思います。

管理人
とても考えさせられる内容でした。75年生まれのわたしだけではなく、85年生まれ、95年生まれ、2005年生まれ、そして、2015年生まれの人も似たような場面に出会うことがあるかもしれません・・・そして、2025年生まれも。

楽天市場82年生まれ、キム・ジヨン (単行本) [ チョ・ナムジュ ]

管理人
映画を見ました!映画は希望あふれる終わりで、書籍とはちょっと異なりますね。個人的には本の絶望感あふれる終わりの方が胸をつかれたかな~

8月31日 同志社大学にてチョ・ナムジュさんのトークショー

8月31日、同志社大学で開催されたトークショーに参加してきました。

韓国の変化と発展をリアルに眺めた作者ならではの実感があったように思います…!ちょっと物足りない部分もあったけれど、無料のトークショーだと思えばオールOK!?

それにしても、来場している方々は圧倒的に女性の姿が多かったですね。

わたしと同世代の女性の姿も多く、「ああ、皆、自らが抱えていた葛藤に気づかされたのだろか?」と考えさせられました。

管理人
サイン本は外れました…!残念…!

2020年3月追記 許せない、根深い女性蔑視「N部屋事件」のおぞましさ

※かなり残酷で猟奇的な事件です。抵抗がある人は決して調べないでください。

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出典:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/03/snsn.php

韓国の性差による分断の壁は思っている以上に大きく、根深いものかもしれません。

Twitter や Instagram などで「N部屋」「N番部屋事件」で検索をかけるといろいろと出てきます。酷い話です。女性を性の対象どころか、モノとして見ていない韓国の男ども…あまりのことに言葉を失いました。

国民請願も非常なスピードをもって行われ、結果、世論の怒りに押されたムン・ジェイン大統領も対策に乗り出し、異例の強硬姿勢を打ち出しています。

このあたりのスピード感は国民情緒法(世論が法を超える様。法治国家としてはおよそあり得ない)と皮肉られることの多い、韓国らしい姿を垣間見せていますね…今回は応援しちゃうな…

参考韓国激震 常軌を逸した極悪わいせつ動画SNS「N番ルーム」事件の闇

ワタノユキ

マイペースに生きる主婦 & 在宅ワークの日々(since20141003)。理想と現実の狭間を永遠に彷徨い中。 詳細なプロフィールはこちらにて。 わたしらしく年齢を重ねる もよろしく♡

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