ケネス・ブラナーが監督した『オリエント急行殺人事件』を見てきました。
映画の感想、アガサ・クリスティーが描いた原作との比較、そして、続編への伏線などを紹介したいと思います。
注意。以下、思いっきりネタバレがあります。
原作はアガサ・クリスティー原作『オリエント急行の殺人』
原作は1934年、ミステリーの女王アガサ・クリスティー著『オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)』。
余談ですが、アガサ・クリスティーの夫はサーの称号を授与された考古学者のマックス・マローワン(古代の中東が専門)。そのため、クリスティーは何度もオリエント急行を利用していたと言われています。
あらすじ
中東での仕事を終えたポアロは、イスタンブール発のオリエント急行に乗りイギリスへの帰途につく。一等車両にはポアロの他、国籍も職業も様々な人々が乗り合わせ、季節外れの満席となっていた。そのなかの一人、アメリカの富豪ラチェットから「脅迫状を受け取った」と警護を依頼されたポアロだが、彼に対する反感から拒否する。そして、雪に閉ざされ、電車が止まった翌朝、12か所も刺されたラチェットの遺体が見つかる。犯人は車内にいる13人の誰かに違いない。ポアロは調査に乗り出すが・・・
『オリエント急行の殺人』は作者のクリスティー自身最もお気に入りの作品の一つと言われており、また、何度も映画化やテレビドラマ化された作品でもあります。
英国BBC制作のテレビドラマ。主演のデビット・スーシェがわたしのイメージするポアロそのもの。
映画版。当時の超豪華スターが共演し、華やかな舞台を彩っています。
また、日本でもドラマ化されましたね。名探偵エルキュール・ポアロを野村萬斎さんが演じておられます♪
そして、2017年度、イギリスの名優ケネス・ブラナーにより映画化されました。
2017年度制作映画『オリエント急行殺人事件』キャスティング
配役を紹介します。
- エルキュール・ポアロ(ベルギー人の名探偵) ケネス・ブラナー
- ムッシュー・ブーク(鉄道会社の重役) トム・ベイトマン
- エドワード・ラチェット(アメリカ人の富豪) ジョニー・デップ
- ハバード夫人(アメリカ人の未亡人) ミシェル・ファイファー
- メアリ・デブナム(家庭教師) デイジー・リドリー
- ドクター・アーバスノット(医者) レスリー・オドム・ジュニア
- ドラゴミロフ公爵夫人(ロシアの公爵夫人) ジュディ・デンチ
- ヒルデガルデ・シュミッツ(公爵夫人のメイド) オリヴィア・コールマン
- ピラール・エストラバドス(宣教師) ペネロペ・クルス
- ゲアハルト・ハードマン(教授) ウィレム・デフォー
- ヘクター・マックイーン(ラチェットの秘書) ジョシュ・キャッド
- エドワード・マスターマン(ラチェットの執事) デレク・ジャコビ
- ピエール・ミシェル(オリエント急行の車掌) マーワン・ケンザリ
- ルドルフ・アンドレニ伯爵(ハンガリーの貴族&ダンサー) セルゲイ・ポルーニン
- エレナ・アンドレニ伯爵夫人(伯爵夫人) ルーシー・ボイントン
- マルケス(自動車販売業) マヌエル・ガルシア=ルルフォ
主要な登場人物はこれぐらいですね。
内、殺されるのはジョニー・デップ演じるアメリカ人の富豪、ラチェット。そして、犯人は誰か?
ネタバレあり、『オリエント急行殺人事件』の感想、原作に極めて忠実な作り
注意。以下、思いっきりネタバレがあります。
これぞ、まさしく映画!という素晴らしい映像美の連続でした・・・!
映画館で見てよかったな~とシミジミさせる映画と申しますか。迫力のある映画。
原作は基本的に地味-な謎解きものであり、動きもほとんどなく、閉じ込められたオリエント急行の車内が中心。それでも飽きさせない連続はさすが!と思わせるものがありました。
特に冒頭のオリエント急行がイスタンブールを出発する時の場面は圧巻。
当時の中東の人にとってはオリエント急行の出発はとてつもない一大イベントだったんだろうな~とシミジミさせられました。本で淡々と読んでいる時と映像で見るのとでは大きく違うことを強く実感させられた場面でもあります。
また、物語の主要舞台であるオリエント急行がゴージャス・・・!とにかくゴージャス!ワオーと叫びたくなるほど美しくも圧倒的な画面の連続でした。
そして、主要な登場人物たちの安定の演技力。
映画を見る前にケネス・ブラナーがポアロ?ミセス・ハバードがミシェル・ファイファー?ラチェットをジョニー・デップ?ピラール・エストラバドスをペネロペ・クルス?え?え?唯一納得できるのはドラゴミロフ公爵夫人を演じるジュディ・デンチぐらいよーと思っていましたが、まぁ、それなりに皆さん、ハマっていたように思います。
彼らがゴージャスな舞台を背景に極めて原作に忠実に演じていましたね。
そう、この映画は極めて原作に忠実に作られていたように感じます。些末なところで「?」と感じるものがありましたが、大きなあらすじはそのままでした。
ラチェットが殺される。その背景にデイジー・アームストロング誘拐殺害事件とその両親の死、無実なのに疑いをかけられたメイドの死がありました。
デイジー・アームストロング事件
アメリカの英雄、アームストロング大佐の娘デイジー・アームストロングが誘拐されて殺害された事件。1932年に起こったチャールズ・リンドバーグの愛娘誘拐殺害事件を参考にしていると言われている。チャールズ・リンドバーグは大西洋単独飛行に成功し、『 翼よ! あれが巴里の灯だ 』として映画化された。
ポアロが事件を調べていくと、いくつもの手掛かりが浮上してくる。赤いキモノ、パイプクリーナー、レースノハンカチーフ、車掌のボタン、浅黒く小柄で高い声の男・・・
それと同時にオリエント急行の乗客のそれぞれの身元が、そう、真の身元が判明していきます。
デイジー・アームストロングの名付け親、デイジー・アームストロングの乳母、アームストロング大佐の従卒・・・
これはひょっとすると・・・
そして、最後の晩餐のごとく、乗客は並べられます。そこでエルキュール・ポアロの独演会がはじまります。
「レディーアンドジェントルメン・・・!」
と。
ラチェットはどうしようもない男だった。ラチェットの犯した罪ゆえに一つの家族が姿を消し、その周囲の人間をも不幸に巻き込んだ。だが、それでも人殺しはいけないことだ・・・
ポアロの下した決断は?
結局、『オリエント急行殺人事件』の犯人は誰?
犯人は以下の赤字の人たちです。
- エルキュール・ポアロ(ベルギー人の名探偵) ケネス・ブラナー
- ムッシュー・ブーク(鉄道会社の重役) トム・ベイトマン
- エドワード・ラチェット(アメリカ人の富豪) ジョニー・デップ ←殺された人
- ハバード夫人(アメリカ人の未亡人 ⇒ デイジーの祖母) ミシェル・ファイファー
- メアリ・デブナム(家庭教師 ⇒ デイジーの家庭教師) デイジー・リドリー
- ドクター・アーバスノット(医者 ⇒ アームストロング大佐の友人) レスリー・オドム・ジュニア
- ドラゴミロフ公爵夫人(ロシアの公爵夫人 ⇒ デイジーの名付け親) ジュディ・デンチ
- ヒルデガルデ・シュミッツ(公爵夫人のメイド ⇒ アームストロング家の料理人) オリヴィア・コールマン
- ピラール・エストラバドス(宣教師 ⇒ デイジーの乳母) ペネロペ・クルス
- ゲアハルト・ハードマン(教授 ⇒ メイドの恋人) ウィレム・デフォー
- ヘクター・マックイーン(ラチェットの秘書 ⇒ 父親がメイドの裁判を担当した判事) ジョシュ・キャッド
- エドワード・マスターマン(ラチェットの執事 ⇒ アームストロング大佐の従卒) デレク・ジャコビ
- ピエール・ミシェル(オリエント急行の車掌 ⇒ メイドの兄) マーワン・ケンザリ
- ルドルフ・アンドレニ伯爵(ハンガリーの貴族&ダンサー ⇒ デイジーの義叔父) セルゲイ・ポルーニン
- エレナ・アンドレニ伯爵夫人(伯爵夫人 ⇒ デイジーの叔母) ルーシー・ボイントン
- マルケス(自動車販売業 ⇒ アームストロング家の元運転手(?)アームストロング大佐の尽力によりビジネスに成功) マヌエル・ガルシア=ルルフォ
乗客の大多数、この赤字の人たち、すなわち12人の人たちがそれぞれ、ラチェットを刺しました。
デイジー・アームストロングを殺された恨み、ソニア・アームストロングとお腹の子が殺された恨み、アームストロング大佐を殺された恨み、罪なきメイドを殺された恨み。そして、それによって精神や生活を破壊された人たちの恨み。
また、本来はソニアの妹であり、デイジーの叔母であるエレナ・アンドレニ伯爵夫人がラチェットを刺すべきところですが、精神が不安定な伯爵夫人にそれはできません。代わりに夫のアンドレニ伯爵がラチェットを刺していると思われます。
映画ではそのあたりがちょっと釈然としなかったのですが、原作ではそうなっていますので、映画もそうだろうと思います。そうでないと12本の傷の説明ができませんしね(^^;
そして、ポアロはラチェット殺害を見知らぬ侵入者によるものと警察に告げ、12人の復讐者を見逃します。
原作との違いも含めてわたしが感じた違和感
まず、原作と配役が異なっている人がいますね。
ドクター・アーバスノットが原作ではアーバスノット大佐ですし、白人です。
また、ペネロペ・クルスが演じたピラール・エストラバドスはグレタ・オールソンであり、想定されている国籍・性格もかなり異なっています。スウェーデン人であり、羊のような性格をスペイン人のペネロペ・クルスがどのように演じるのかと不思議に思っていました。が、思いつめたような演技がうまく画面に溶け込んでいたように思います。
個人的に驚いたのはムッシュー・ブーク。
誰だ、このチャラ男は?と目が点になりました(^^;
わたしの手元にある『オリエント急行の殺人』に、ムッシュー・ブークに関しては以下のように記載されていますよ。
髪を短髪にした、背の低い、ずんぐりした、年配の男であった。
そ、それがあんなチャラ男に・・・!と目を剥きそうになりました(^^;
そして、伝説の女優リンダ・アーデンを演じたミシェル・ファイファー。
デイジーの祖母であり、ソニア・アームストロングとエレナ・アンドレニ伯爵夫人の母親。わたしはもっと肝っ玉太いアメリカ人のおばちゃんを想像していたのですが、それを今なお美しいミシェル・ファイファーが演じるんですねーと。
で、そのミシェル・ファイファー演じるハバード夫人がオリエント急行に乗車後にみせた、ラチェットと微妙な関係性というかはすっぱなやりとりというか、そのあたりにちょっと抵抗感を感じたりしました。
最後に主役、ムッシュー・ポアロ。世界一の名探偵、ムッシュー・ポアロ。愛すべき小男。
そういう意味では、やはりケネス・ブラナーではポアロじゃないんですよ、うん。わたしの中でムッシュー・ポアロは永遠にデビット・スーシェだと強く実感もしました。
このケネス・ブラナー版のポアロは感情的で激しくて、意外と動くので驚きましたことよ・・・!
でも、それが今の映画化ということなのかなーと妙に納得をしました。
それにしてもこの映画、原作を読んでいない人でも分かるのかしら?かなり唐突な、スピーディな展開でしたよね・・・?
次作は『ナイルに死す』!?
最後のシーンで瞠目。
何!?エジプトで殺人!?それは『ナイルに死す』だろうがー!と叫んでしまいました。豪華電車の次は豪華客船ですかー
実はわたしが一番好きなクリスティー作品がこの『ナイルに死す』なのです。ちょっと楽しみにしたいと思います。こちらは男女の三角関係とナイルが複雑に絡み合い、複数の殺人が起こる話になります。
『オリエント急行の殺人』と並んでクリスティー作品では常に人気上位に入りますね。
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